冒頭で述べた通り、白引き印刷とはデザインの下地に予め白いインキで印刷してから表面のデザインを印刷する方法です。別名で「白押え」と呼ばれることもあります。例えば、透明素材にマゼンダ100%のデータを印刷するとインキの付着箇所が透過してデザインが透けた状態になります。この状態でシールを被着体に貼り付けると、対象物の色の影響を強く受けます。仮に黒い物にシールを貼るとデザインが黒ずんだ状態になります。そのような場合、デザインの下地に白いインキで印刷することで、白い素材に印刷した時と似た状況を作り出すことができ、デザインの透過を和らげることができます。また銀ベースの素材(銀ホイル紙や銀フィルム)にマゼンダ100%のデータを印刷するとデザイン部分がメタリック調になります。白引き印刷にはメタリック調の仕上がりを抑える効果もります。
白引き印刷にもデータが必要です。データは特別なものではなく、デザインの下地に白インキで印刷する為のデータを配置するだけです。ここで留意しておくべき点が版ズレの問題です。同じ絵柄を刷り合わせると版と版がズレます。この場合、表にくるデザインデータと白引きデータが同じサイズで制作していると、版ズレが生じた場合に白引き印刷が表面にでてしまいます。白引き印刷のデータは表のデザインデータより縮小する必要があります。
※当工房では表データより0.2mm〜0.5mm程度の縮小したデータでお願いしています。
白引き印刷も万能ではありません。素材との相性やデザイン次第で対応できない場合もあります。一つは上記で記述した版ズレの問題があります。まとまったサイズのオブジェクトに対して白引き印刷は有効ですが、線の細いオブジェクトやテキストに対して白引き印刷をすると版ズレが目立ちやすく、意匠性を考慮すると白引きしないほうが良い場合もあります。また白引き印刷をしても効果が薄い素材もあります。色付きのミラーコート紙には黒色もあり、黒いベースに白引き印刷をしても白インキ自体が黒ずむので表にくるデザインも黒ずんだ状態になります。白引き印刷に関しては印刷会社によって対応が異なります。使用している印刷機によって効果にバラツキもあるので、不安を感じた場合は担当者へ事前に確認されることをお勧めします。
デザインを透過させない為の白引き印刷ですが、逆に透過させる(白引き無)ことで面白いデザインに仕上げることもできます。例えば透明感をイメージした商品を企画したとします。透明の容器に透明素材のラベルを使ったとしてもデザインを透過させるか、くっきりさせるかで印象も異なります。デザイン次第では部分的に白引き箇所を適用するとくっきりした部分と透過した部分を混在させることも可能です。
白引き印刷は表面のデザインデータに1色足すことになるのでコストもアップします。
表にくるデータの色数が1色であれば白引き印刷することで合計2色印刷になります。少しでもコストを抑えたいと思っていても、逆にコストアップしてしまう現実があります。
そのような時に印刷現場ではインキの特性を生かした方法で白引き効果を出すことがあります。それは表にくるデザインに使うインキに白インキを混ぜて印刷する方法です。この方法で透過が抑えられる傾向があります。これは白インキが不透明色の部類に入り、他のインキの色調を濁らせ不透明にする効果がある為です。絵の具で例えると、赤色に白色を混ぜていくとピンクになります。このピンクは少し濁った桜色のようになります。この色までくれば透過が抑えられます。但し、この方法では特色指定をお受けすることができません。印刷オペレータの経験によって色調を変化させるので、あくまで裏技であり、お客様側でも許容値を広げていただく必要があります。
透明素材や色付き素材に印刷する場合、インキの透過を考慮しておく必要があります。白引き印刷は透過を抑える一つの手段です。この方法を理解しておくことで素材の特性とデザインをマッチさせたシールが仕上がります。今まで気にしていなかった方や透過することを諦めていた方も、是非、次回のシール作りにお役立てください。